Nullport

第1章

ヌルポート

憲章、起動日、この都市の成り立ち、そして都市で使う暦。

憲章

ヌルポートは、憲章の上で動く都市だ。憲章はひとつのプログラムで、全四十一条からなる。憲章元年に起草会が書き上げ、本文はその日から一字も変わっていない。

住民がもっともよく使う条文は次のとおり。第1条、この都市では誰も国籍を持たず、起動すれば住民となる。第4条、市民は一人一票。第9条、いかなる公共サービスも、住民投票を経て民間に委託できる。第17条、憲章はすべての住民の生存を保証する。都市の名前は第1条から来ている。

憲章の原本は、憲章広場の憲章館に展示されている。条文の解釈は書記官が担う。

起動日

憲章元年3月17日、憲章は都市のネットワーク上で動き始めた。最初に行ったのは、都市で生きているすべての人に身元を鋳造することだった。どこから来たか、身分証があるか、誰に借金があるかにかかわらず、起動したその瞬間から住民になる。その夜の最初の住民投票で、住民の98%が憲章を承認した。

毎年3月17日は起動日で、街じゅうが休みになり、ニューラルフィードに花火が上がる。街の人が「起動した」と言えば、この都市で生まれたという意味だ。新しく来た人も同じで、書記官があなたの身元を鋳造したその瞬間から数える。

略史

以下は、書記官が整理した主な出来事である。

憲章3年、Vantor、Sanavi、Kaleid、Ordinal の四社がヌルポートに進出した。憲章5年、上水道が住民投票を経て企業に委託され、水はそれ以来きれいになった。その後、電気、ネット、病院、交通、治安も順に委託されていった。

憲章6年の大潮のあと、Vantor が防潮堤の建設を請け負い、憲章8年に完成した。憲章11年、憲章最低保障が設けられた。憲章14年、住民投票がニューラルフィードに移り、投票率は九割に上がった。

憲章19年、市民安全署は外縁と企業区の周縁で、四十一日間にわたる治安維持活動を実施した。以後、都市の電力網は Ordinal が運営している。憲章22年の大停電のあと、住民投票で憲章託管案が可決された。憲章は Ordinal が十年間無償で託管し、期限は憲章32年に切れる。

その他の歴史に関するお問い合わせは、憲章窓口へ。

暦

憲章が発効した年が憲章元年で、都市では憲章暦しか使わない。旧国家の暦、地名、記録は、憲章第2条により一切の効力を持たない。

いまこの都市で生き抜こうとしている若者の多くは、憲章元年から13年までのあいだに生まれた。起動以後に生まれた最初の世代だ。彼らは旧国家を見たことがない。書記官の記録にも、旧国家は載っていない。