Nullport

第2章

誰がこの都市を治めているか

議会と書記官、四つの企業、灰服、憲章最低保障、メディア、そしてストリート。

議会と書記官

紙の上では、ヌルポートの最高権力は憲章議会にある。シーズンごとに住民投票で選ばれる執政官一人と、十二人の理事だ。議会は憲章広場の憲章館に置かれ、会議はニューラルフィードで生中継される。現職の執政官は Linnea Ashford。起動以後に生まれた初めての執政官だ。

日々の行政は書記官が処理する。書記官は都市の市政 AI で、Ordinal が運営している。起動、登録、証明、番号札の発行、仲裁は、すべて憲章窓口で扱う。書記官の仲裁に上訴はできない。書記官はいつも礼儀正しく、決して急がない。

四つの企業

都市の電気、水、医療、インプラント、ネット、治安の大半は、住民投票を経て四つの企業に委託されている。

Vantor は軍需と警備。堤を築き、十二のゲートを運営し、市民安全署を請け負う。取り立ては回収課が担う。Sanavi はバイオテクノロジー。白園総合病院とインプラント事業、憲章最低保障を運営し、人間性指数もこの会社の商品だ。Kaleid はメディアとデータ。ニューラルフィードも、シティ・チャンネルも、ワールド・デイリーも、この会社のものだ。Ordinal は AI と演算資源。都市の電力網を運営し、憲章そのものも託管している。

憲章は企業税を定めていない。税率は住民投票で決まり、第一回の住民投票はそれをゼロと定めた。

市民安全署

市民安全署は都市の警察で、Vantor が請け負っている。契約は四年ごとに住民投票で更新される。制服が灰色なので、街の人は彼らを「灰服」と呼ぶ。

担当は公共の秩序、検問所、夜間外出禁止令、押収、罰金。企業どうし、クルーどうしのことは、路上に持ち出されないかぎり管轄外だ。灰服があなたに向ける関心をヒートと呼ぶ。ヒートが高いほど、路上で呼び止められて検問を受けやすくなる。街の人はこれを「灯がつく」と言う。ルールは「ステータス」の章を参照。

憲章最低保障

憲章第17条:憲章は、すべての住民の生存を保証する。憲章最低保障は Sanavi 最低保障事務部が運営しており、憲章11年に設けられた。

延滞が長引くか、借金が信用枠の上限に達すると、あなたは最低保障の対象になる。分割で買ったインプラントは回収課が回収し、あなたは家賃のいらない福祉カプセルに移り、毎日配給食を一食受け取る。借金の利息は止まる。最低保障の基準は厳密に書かれている。保証するのは、あなたが生きていること。それだけだ。ルールは「金」の章を参照。

メディア

都市の情報の大半は、ニューラルフィードから届く。ニュースも広告も、友だちの近況も住民投票も、すべて同じひとつのフィードに流れてくる。ニューラルフィード、二十四時間放送のシティ・チャンネル、毎日未明に発行されるワールド・デイリーは、いずれも Kaleid のものだ。

ワールド・デイリーは、都市で実際に起きたことだけを書く。紙面の数字にはすべて出典がある。深夜を過ぎると、登録されていないチャンネルを受信することがある。書記官からの注意:未登録チャンネルの内容は、事実を構成しない。

ストリート

市民安全署の統計によれば、都市で登録されているクルーは六つ。ブロック街の夜市の千灯会、東埠頭の鉄肺、高架下のネオン鼠、外縁・錆ヶ原の錆冠、企業区のリストラ組、そして水没塔に住む空殻会。市民安全署は住民に対し、クルーの活動から距離を置くよう呼びかけている。

同じ統計は、ブロック街の屋台も、使い走りも、貸し借りも、これらのクルーなしには回らないことも認めている。闇市に出回る再生インプラントの大半は、錆冠の手によるものだ。ブローカーは企業とストリートのあいだで仕事を回して上前をはねる。たいていは旧終着駅のバー「終電」にいる。